コラム
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モビリティ社会の安心・安全に貢献するステレオカメラ
食品のラベルや包装、布地、Tシャツ、壁紙など、私たちの身の回りにはデザイン性にあふれたアイテムがたくさんあり、デザインや絵の美しさが私たちの心を動かし、生活を豊かに彩ってくれています。その美しさを実現する方法の一つがインクジェット技術です。
産業印刷市場では、さまざまなニーズに対応し、求められる品質を早く、安く実現するため、インクジェット技術を活用したデジタル印刷(オンデマンド印刷)に注目が集まっています。従来は、印刷のための版を作り、その版を使って同じものを大量に印刷するオフセット印刷などのアナログ印刷が主流でしたが、インクジェット技術を活用すれば、多くの種類を少量ずつ印刷したいという要望にもお応えすることができます。
従来、インクジェットと言えば、紙への印刷というイメージがありましたが、現在はインクジェットヘッドとインクの進化により、食品のラベルや包装、紙器(パッケージ)、布地(テキスタイル)、Tシャツ、建材、家具、車、食品などの装飾・加飾にも印刷の場を広げています。
ガラス、金属、木材などの建材印刷、質感を表現
壁紙やキャンバス布地へもダイレクトに印刷
繊細な布地にも色鮮やかなプリント
カフェラテの泡にRICOHの文字をプリント
また、インクジェット技術は仕上がりの美しさに加え、必要な部分にだけ印刷できる特徴を持つため、マスキングの手間が省けます。これにより、使うインク量を最小限にすることができ、切り抜きなどの加工では実現しにくい繊細な造形も可能となるなどの特色を持っています。今後はエレクトロニクス、医療・医薬品といった今までなかった分野にも、インクジェット技術を用いたデジタル印刷が拡大していくことが見込まれています。
インクジェットヘッドは、インクジェットプリンターに組み込まれているインクを吐出する部品です。
1973年から開発に着手したリコーのインクジェットヘッドは、日々研究、改良を重ね進化を続けています。ステンレス素材による高い剛性と耐久性を備えたパーツと、独自のインク循環構造やヒーター機構により、紫外線によって硬化するUVインクなどの高い粘度のインク、沈降性の高いホワイトインク、低粘性の水性インク、速乾性インクなど、特性の異なるインクにも安定して利用することができます。さらに、リコー独自のインク吐出機構と高度な制御技術により、数ピコリットル(1ピコリットルは1兆分の1リットル)という極少量の液滴を高精度かつ安定して吐出することを可能にしています。幅広い素材への精密な印刷はこうしたリコーのインクジェットヘッドの技術に支えられているのです。
用途によって形状やサイズにバリエーションがある
ボトルやパッケージに貼られているラベルの印刷では、印刷版を使用するオフセット印刷やフレキソ印刷が、従来多く使われてきました。近年、製品サイクルが短くなり、多品種化することでラベルの種類も増加。これに伴い、多品種印刷に適したインクジェットによるラベル印刷が増えてきました。
アメリカのラベル印刷機器メーカーMark Andy様では、従来のフレキソ印刷にインクジェット印刷ユニットを加えた、ハイブリッドマシンを開発。そのマシンにリコーのインクジェットヘッドが搭載されています。フレキソ印刷と同等の生産性を維持するシングルパス※方式による印刷において、リコーのインクジェットヘッドは、微小な液滴により滑らかなグラデーションやきめ細かい肌面を再現した高画質印刷を実現。それに加え、ラベル印刷に必要な、硬化が早く摩擦に強い、高粘性のUV硬化型のインクを吐出できるヘッドとして、リコーのインクジェットヘッドが選ばれています。
ラベルも従来の印刷と遜色のない品質レベル
※シングルパス:印刷幅分の長さとなるように複数のインクジェットヘッドを配置し、インクジェットヘッドの下を印刷される対象物が通過することでヘッドが往復することなく一度に印刷する印刷方式。インクジェットヘッドには単位時間当たりの吐出量・連続印刷時の信頼性はもちろん、印刷のズレが生じないように、吐出滴の着弾位置精度・アライメント精度のいずれにおいても、高い性能が求められる。
テキスタイルの印刷では、従来スクリーン印刷が主流でしたが、近年では、インクジェット印刷による染料インクを使った布地へのプリントや、顔料インクを使ったTシャツプリントも定番になりつつあります。
テキスタイル印刷について熱く語り合う開発メンバー
これまでテキスタイルの印刷に使用される染料インク※は、粘性が低いため吐出の制御が難しく、インクに含まれる化学成分によりヘッドがダメージを受ける可能性もあるため、インクジェット印刷で使用するのが困難でした。リコーのインクジェットヘッドは、これらのインクも安定的に吐出でき、ダメージに強く、長寿命を実現しています。またテキスタイル産業においては、廃液の発生が問題となっている洗浄工程の削減が進むことで環境負荷の低減を実現するなど、社会的な問題の解決にも応えています。
ICHINOSEブランドで知られるテキスタイル印刷機器メーカー・東伸工業様のインクジェットとスクリーンのハイブリッドプリンター「iugo」にも、リコーのインクジェットヘッドが搭載されています。そのプリンターはアパレルメーカーなどで広く活用され、インクジェット印刷ならではのデザイン性の高い商品を生み出しています。
「iugo」により印刷された布地
※染料インク:分散染料、反応染料、酸性染料、昇華染料などをインクジェットヘッドから吐出できるようにしたもの
インクジェットによる印刷技術はさらなる発展を続け、情報を表示するだけでなく、印刷によって新しい機能を生み出すことも可能になりつつあります。
日々進歩するIoT社会で、小型センサーなどさまざまなIoTエッジデバイスが登場するなか、重要なのはIoTデバイスを動かすための電力を蓄積・供給する電池です。従来、電池は決まった形とサイズのものが作られ、それに合わせて装置側を設計するしかありませんでした。それとは逆に、装置に合わせて新たな形状、サイズの電池を作ろうとした場合は、大掛かりなラインを組まなければならないため、対応は困難でした。
そこで、リコーが培ってきた材料技術と、インクを高い精度で安定的に吐出できるインクジェットヘッドの技術を融合。自由な形の蓄電池をインクジェットにより製造する印刷技術の開発が進められました。主要な正(+)極、負(-)極材料であるカーボン材料や重いセラミックを高濃度かつ吐出可能なレベルにまで分散させ、難しいと言われたインク化に成功。セパレーターとなる独自の絶縁材料を含めて、充電式のリチウムイオン二次電池の主要構成材料のインク化を実現しています。
このインクを安定して吐出することが可能なインクジェットヘッドにより、正極、セパレータ、負極を印刷。小型、薄膜、少量多品種はもちろん、サイズや形にとらわれない自由な形状のリチウムイオン二次電池を製造する技術の開発に成功しました。
この成果は、nano tech 2019にてnano tech大賞を受賞するなど大きく評価され、注目を集めています。
開発談義に思わず笑みがこぼれるリコー研究開発本部のメンバー
今後は、電池全体のパッケージや配線なども含めて、すべてインクジェットで製造できるようにすることを目指すとともに、電池メーカーなどのパートナー企業に向けて本技術を用いて製造した電池部材の提供や、本技術によるデジタル製造の提案を開始します。
インクジェット技術で変わっていく世界を感じていただけたでしょうか。これからもリコーはデジタル技術を駆使し、生きることのすべてに活きる印刷と、そこから出力される豊かな未来の実現に取り組み続けます。
nano tech 2019に出展したさまざまな形状の電池サンプル
[2019年3月掲載]